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2023.06.06 月経困難症(生理痛)の治療あれこれ

以前の記事で月経困難症の原因やピルのお話をしましたが、今回はピルが使えない人はこんな治療法がありますというお話です。

まずピルを使えない人はどんな方でしょうか

35歳以上でたばこを吸っている方、前兆のある(閃輝暗点:頭痛が起こる前に目の前がキラキラして真っ暗になる)片頭痛がある方、高度の肥満(BMI35以上)のある方、40歳以上でピルを開始する方、血栓性素因(プロテインS欠乏症など)をお持ちの方、乳がん・子宮体がんなどエストロゲン依存性腫瘍にかかったことがある方、抗てんかん薬などで相互作用がある薬を内服中の方…

上記に当てはまる方はピルによる副作用が大きく出る可能性が高く、一般的にはピルをお勧めできません。

ピルを使えない人は鎮痛薬や漢方などを使い我慢するしかないのか?ひと昔前はそうでしたが、今はいくつか方法があります。

①プロゲスチン療法 

子宮の内膜を薄くし、出すものがない状態を作ります。同時に排卵抑制も起きるので月経が止まります。ピルは黄体ホルモン(P)と卵胞ホルモン(E)の合剤ですが、この治療法ではPのみを投与します。本来、子宮内膜はEとPで安定していますが、Pのみの投与となるため内服開始時は不正出血をしやすくなります。徐々に頻度は減り、出血が止まってきます。不正出血の副作用はほとんどの方が経験します。ピルでは必ず月経(消退出血)を起こさなければなりません。一部の方では内服前よりはよいものの、月経時に痛みを伴うとおっしゃる方がいます。本治療法では月経を起こす必要がないため痛みのコントロールはピルより良いです。排卵抑制効果はあるのですが、内膜症や腺筋症、筋腫などがない月経困難症で用いる0.5㎎錠では数%排卵が起こることが報告されており避妊には注意が必要です。ピルとのもう一つの違いは、お薬の代謝が早いため一日2回の内服が必要です。

月経がないなんて大丈夫ですか?と聞かれることがありますが、お薬でコントロールされている状況なので大丈夫です。そんな風におっしゃっている患者様も、ピルから切り替えた後、月経が来ないってこんなに楽なんですねとおっしゃる方がほとんどで継続されています。

②ミレーナ(黄体ホルモン放出システム)挿入

下記の図のように子宮の中に器具を挿入する方法です。2-3㎝の非常に小さいもので違和感などはありません。子宮の奥に挿入するので挿入時に痛みを伴う場合があります。性交渉未経験の方は難しい場合があります。出産経験のない方でも挿入はできますが処置時の痛みを強く感じる場合があります。子宮の処置や検査の際、迷走神経反射といって血圧が急激に下がることがあり処置後に気分が悪くなる場合もありますが、30分くらいで回復します。

ミレーナは以前から避妊リングとして使用されていました。少し前から月経困難症の治療として保険適応となりました。T字の部分に黄体ホルモンが入っておりここからじわじわとホルモンが出ます。上記のプロゲスチン療法は全身投与になりますがミレーナは子宮だけで作用するものとお考え下さい。ミレーナは内膜を薄くし妊娠を阻害します。同時に内膜が薄くなるため月経量が減少し月経痛も改善することが期待できます。一部の人ではプロゲスチン療法と同じように月経が止まる方もいらっしゃいます。

一度入れると5年間は有効です。コスパが最も良い方法です。定期的な内服が苦手な方、いろいろな内服をたくさんしている方などにおすすめの方法です。

①②ともにピルが飲めない方でも使用できる月経困難症の治療です。

以前よりも月経困難症で使える薬や治療法が増えています。学生さんでは月経困難症により学業成績が低下するとの報告があります。また、2019年3月に経済産業省より月経随伴症状による1年間の社会損失は約6800億円、そのうち労働損失(症状により働けない、労働生産性が落ちるなど)は約4900億円と報告されています。少し前のデータなので今はもう少し改善しているかもしれません。月経困難症は今は治療できる時代です。月経痛を我慢していても利益になることはありません。症状を改善し生活の質(QOL)をあげてみませんか?

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